『琴葉あのね』解説

2019/12/06
ゲーム開発

この記事は『ボイゲ Advent Calendar 2019』の6日目の記事です。5日目はいくしーどさんの『Shader Graphを触ってみる - い、い、、いっくし!!』でした。Shader Graphは最近触り始めましたが、意外と簡単にいろいろできたので知識が無くても尻込みせずに一度触ってみると楽しいですよ。

本記事ではボイスゲームジャム4で製作した『琴葉あのね』を解説します。何か拾えるものがありましたら拾っていただけると幸いです。まだプレイしたことが無いなら一度触ってみてくれると嬉しいです。解説動画も作りかけたのですが、労力に対して見合わないことに気付いたのでボツにしました。あとアルゴリズムの解説もしたかったけど時間が無いのでオミットしてます。

ボツにしたリソースでカバー用の画像 カバーイラスト

目次

成り立ち

ボイスゲームジャム4では、開発期間に先立って企画ジャムというイベントがありました。企画ジャムは期間内にゲームの企画書ないしそれに準ずるものを製作するイベントで、50の企画が提出されました(すごい)。当時ゲームジャムで製作したいゲームも思いつかなかったので、イベントを盛り上げる意味も込めて、提出された企画から一つ選んで製作することにした結果、製作したのがうわばみさん企画の『琴葉あのね』です。

『琴葉あのね』が製作できたのは企画の利用と改変を快諾いただいたうわばみさんのおかげですので、この場を借りてお礼申し上げます。また、紹介用の動画を作っていただいた黄昏空クウさんにも合わせてお礼申し上げます。

ゲームデザイン

ゲームの設計に関して、コンセプトは企画書から拝借し、 「かわいい琴葉姉妹が配管を通して囁きあう」ゲームと設定しました。かわいいことを最重点とし、自分がある程度楽しめるゲームを目指しました。結果としてかわいさとゲーム性をバランスよく実現できたと思います。また、声がエコーする演出などは企画書のアイデアによるものです。めっちゃいいですよね。

基本ルールの設計

企画書にはゲームのルールについて少しだけ記載がありましたが、企画者には申し訳ないと思いつつも採用しませんでした。

ゲームルールの企画 引用:うわばみ,『琴葉あのね 企画書 軽量版』

不採用の理由

企画書を拝見して難しそうな印象を受けました。 配管ゲームでは大抵、スタート地点からゴール地点を繋げるというのがプレイヤーの目標です。これに対してパネルを回転して置き換えるというのは「操作の直後の状態」を認識しずらいでしょう。回転した後のパネルがどのように配置されるか、どのように周囲と接続されるか、全体の経路がどうなるかと予測することが多いですから。このような難しいゲームを作るなら、プレイヤーがじっくり考えられるようなシステムにする必要があり、適応するのはステージクリア型のパズルゲームになるかと思います。
じっくり考えられるステージクリア型のゲームにおいて、解法が1種類であることは個人的に面白くない[1]と感じますので、ステージ内でもプレイヤーの個性が出るようなデザインにしたいところです。しかし、僕自身がパズルゲームのステージを考えることを苦手としていること、簡単な解法とそうでない解法を両立させることの難しさ、といった理由から企画書記載のゲームのルールは不採用にしました。

スコアアタック型パズル

回転して置き換えるのが難しそうということで、プレイヤーが配管する操作としては、僕が好きだった配管ゲーム『パイプドリーム』[2]に倣って、ランダムに抽選されるパネルを好きな位置に配置するという方式をとしました。

また、プレイヤーの目的を時間内の高得点の獲得に置きました。スコアアタックは製作者側から目安を設定する必要が無く[3]、プレイヤーの側で勝手に競い合ってくれるのでバランス調整の面で大幅に楽をできることを理由に選んだ方式になります。スコアアタックのパズルゲームということで、『テトリス』に代表される対戦でない落ちものパズルに近いゲームになりますね。

スコアアタックの配管ゲームとしたとき、ゲームのルールを設計する上で難しいことは盤面を使いまわせるようにすることです。最も最初に考えたのは、スタート地点(茜ちゃん)とゴール地点(葵ちゃん)の間を繋ぎ、繋がるとパネルを消去することです。
開発初期においてはこれをそのまま実装しましたが、実際に動かしてみると、せっかくパネルを配置して作った経路がシステムにより勝手に破壊されてしまうのは、勿体ないというか少し残念な気持ちになりました。
そこで、開発中にEIYAという謎のメカニクスを追加することで、プレイヤーに自発的に消去してもらう仕組みを作りました。パネルが消去されることに納得感を持たせると同時に、CALLした後消去以外に回路を修正して再度CALLするという選択肢を増やすことにもなりました。

結果として、このゲームは「配置」→「CALL」→「EIYA」→「配置」のループを基本のフローとしたゲームとして出来上がりました。

不透明な最適解

ゲームをスコアアタックとしたとき、最適解がすぐに分かってしまうようでは面白くないので、最適解がなるべく分からないようにデザインしたつもりです。

Ver.1.0系までは僕が気付かない最適解がいくつかあって、そのうちひとつはL字型のパネルは4隅に置くのが確定するというものです。考えてみれば当たり前なのですが、自分のゲームで本気でスコアアタックなどはしないので気付けませんでした。Ver.1.1系からはこれを修正するため、回路の上下がループするように変更しました。結果として複雑度が上がり、ただでさえ難しいゲームがさらに難しくなってしまいましたが、茜ちゃんと葵ちゃんの間の最短経路は上下を利用した方が短くなることもあって、四隅がL字安定ではなくなることに大きな意味があったのです。

また、一見するとL字パネルやT字パネルは十字パネルの下位互換なのですが、各パネルには声の減衰値と基礎得点というものが定められており、十字パネルは減衰値が大きく得点が小さいため、単純に比較できなくなっています。伝わった声の大小で大きくスコアが変わる得点計算ですから、スコアの大小は予測しにくいものとなっています。思ったよりも声が上手く伝わらなかったときにEIYAせずに修正する選択肢もありますから、ますます何が最適か分からなくなるように作っています。

さらにレベルアップもプレイヤー側である程度コントロールすることが可能になっており、パネルの消し方を工夫することで、1レベル分をスキップできるようになっています。レベルごとに出現するパネルが異なるため、配置しにくく感じるレベルやスコアを稼ぎにくく感じるレベルをスキップすることも選択肢としては用意されています。とはいえ、これに気付くのはかなりの上級者でも難しいとは思うので、おまけ程度の要素ですけどね。

このように、最適解を分からなくすることで、プレイヤーによっていろんな配置の方法があるというところを目指しました。これがゲームの奥深さそのものと言えるでしょう。実際のところはハイスコアを狙いやすい配置というのが動画等を通じて共有されており、攻略法のようなものが確立されていたりしますが、それが最適かどうかは永久に分からなくあって欲しいなあと思います。

反省

『琴葉あのね』の僕個人の評価は「ほぼ大成功だけど一部失敗したところもある」です。

評価の理由と要因

まずは成功した点から。

『琴葉あのね』多くの人に遊んでもらうことができました。前作であるところの『Ankoro Hazard』が1000PV、500DL程度でしたので、ブラウザゲームとして作る今回は2000PVを目指して作りました。
結果として10000PVを超えることになりましたので、この点は大成功と言えるでしょう。

アナリティクス

要因としては色々ありますが、最も大きいのはビジュアルの演出面にかなりの時間を割いたことだろうと思います。コンセプトがかわいいゲームであり、コンセプトを活かした見た目に面白いゲームになったと思います。だからこそTwitterに動画を投稿したときに多くの人に拡散されたのでしょう。実際にページへの流入の半分程度はTwitterからでしたし、やはりゲームを宣伝するにあたって見た目が及ぼす効果は他の要素に比べて大きいのだと思います。

また、感想として「かわいい」と「楽しい」という意見を多く貰うことができました。
「かわいい」はコンセプトにも含まれる通り、最初からかわいいゲームを目指しました。結果としてコンセプト通りの感想がもらえたことはとても嬉しいことです。
「楽しい」に関しては、開発が進んで「このゲームは難しいゲームになりそうだ」と思ったときに、パズルゲームがあまり得意でないひとにも楽しめるゲームにしようと思って、サウンドやエフェクトなどの細やかなフィードバックに注力した結果だと思います。というのも、僕自身もあまりパズルゲームが得意ではないので、自分が楽しめるように作りました。自分だけかもしれませんが、何も考えずにパネルをパチパチしてるだけで結構楽しいようにできたと思っています。

最後に、失敗点として、予定より掛ける時間が長くなってしまったということが挙げられます。 1週間のジャム期間ですが、ゲームジャムの期間の直後に別件の締め切りがあり、1週間まるまる時間を費やすことはできないはずでした。しかし、ジャム期間を前倒しにしながらほぼまるまる1週間かけて開発をしてしまい、結果として2件あった別件のうち、1件が遅れることになってしまいました。(さほど重要なことではなかったので事なきを得ましたが)
これは、開発期間を短くするために努力するのではなく、開発期間中に他のタスクに気を取られずに済むような環境を予め整えておくのが正しいように感じられます。期間に余裕のあるタスクは余裕のあるうちに片付けられるようになりたいです。

より良いゲームにするためには

今となっては改善する予定は無いですが、今後のためにもどんな点に気を遣えれば良かったかを振り返っておきます。

感想として頂いた中に多かったのは「難しい」です。

まあそうですよねって感想ですが、それにしても不親切だったなとは感じます。改めてゲームの説明を読んでみると「なんもわからん...」ってなったので、製作者でない人からすると本当になんもわからんはずですね。短期間製作なんだから大目にみてほしいとは思いつつも、多くの人に遊んでもらいたいという目標があるなら、短期間製作だからというのは言い訳にはならないでしょう。

短期間製作において効果的にプレイヤーを教育する手段として、チュートリアルを実装するのは難しいとしても、タイトル画面にチュートリアル的な要素を組み込むとか、ゲーム開始時の盤面をうんと小さくするとか、何かしらの対策を打つことはできたはずです。あるいは、説明をもっと分かりやすく丁寧にするという方向性もあるかもしれませんが、そもそも説明はデザインの敗北なので、ゲームのルールを説明している時点でもうダメという考え方もありますね。

おわりに

記事を書いてみると色々書くことがあって気付くと長くなってしまいました。でも、記事に書ききれていないことがたくさんあります。アルゴリズムとか。『琴葉あのね』に関してはこれ以上書かないかもしれませんが、ゲームづくり全般についてもっと発信していけたらなと思います。

『琴葉あのね』は多くの人に遊んでいただいたり、動画を作ってもらえたりしてとても嬉しく思います。来年も多くの人に遊んでもらえるゲームを作れればいいなという所存でございます。


  1. 製作者が考えた解法をなぞるのは面白くないです。僕が考えるゲームの面白さはいつかどこかで語りたいですね。

  2. パイプドリーム - Wikipedia 僕が遊んでいたのはGB版ですね。

  3. プレイヤーのモチベーションを高めるために、クリアの目標設定をしてあげるのは重要ではあるんですけどね。『琴葉あのね』では、Level30到達でほんの少し演出が入ります。どこでも説明していませんが。

© 2019-2022 hassakulab.com, built with Gatsby